マカロニさっしの日記

音楽、本、好きなこと、日常、考えていること。

マカロニ物語

 

    

 僕はマカロニの穴から星を眺めていた。

「そんなんじゃ見えないよ」

遠くの方から声が聞こえた。辺りを見回すと川の向こう岸に人が立っていた。あの人が声をかけてきたのかと思っているうちに、川の上の橋を渡って近づいてきた。彼は白いニット帽を被ってピンク色のスウェットを着ていることが見てとれた。

「そんなんじゃ見えないよ」

白い息とともに彼は声を発した。よく見ると胸に白い名札をつけている。黒いマジックで太く「セロリ」と書いてある。セロリがなんでマカロニの小さな穴から星を見ていたことを川の向こう岸から見えたのかわからなかった。

「僕のちくわはねえ、遠くのものもよく見えるんだ」

 セロリはちくわを片手に片目をつぶり穴から覗きながら言った。ハッとした。人の心の中も見えているのかと。セロリは次に空を眺めた。ちくわの穴から星を見ている。マカロニの穴からは星ひとつしか見えなかった。だからちくわの穴からも同じようなのだと想像した。

「月の上にはジャガイモがころがっている。月の上にはジャガイモがころがっている。」

二回言う必要があったのかという疑問と月の地表までも見ることができるちくわがあるのかという滑稽さが僕の頬を緩めた。

「君も見てみるかい?」

セロリは聞いた。そんなおかしなことがあるのかと思いながらも覗いてみたいと思った。そのとき、ニワトリがセロリと僕の間を横切った。

「トベナイ、タナカ、トベナイ、タナカ」

言葉を喋っていた。しかしあまりおかしいと思わなかった。ニワトリはタナカという名前らしい。ニワトリのタナカは羽が折れていてうまく羽ばたくことができないみたいだ。

「ドーナツノアナ、ホシヲミル」

何を喋っているのかよく理解できなかった。セロリは言っていることの意味を汲み取った様子で、

「お前は、ドーナツの穴から星を見るのかい?」

「コケッ、コココ、コケッ、コココ」

急に普通のニワトリになった。ドーナツ。そういえば、今日学校の帰りに買ってきたんだ。チョコドーナツを一つ学校帰りに食べるのがささやかな贅沢だった。僕は、ドーナツを手さげ袋から出して、ニワトリのたなかに差し出した。差し出したところで、ニワトリに受け取る手なんてないやと、おかしく思った。 

「とさかのところにドーナツをはめるんだ」

「コケッ、コココ、コケッ、コココ」

セロリとニワトリのたなかは意気投合しているみたいだ。僕は、言われた通りにとさかにドーナツをはめた。その瞬間、赤いとさかが黄色くなり、徐々に光っていって視界が真っ白になった。眩しいはずなのに不思議と目は開けていても大丈夫だった。しばらくその光景を見ていると、光がおさまり、現実の世界が見えてきた。しかし、地面は大小さまざまなくぼみがあり、空は真っ黒だった。そして、平らな地面の上にジャガイモらしきものが2つあった。もしやここは月の上・・・僕は自然とそう思っていた。本当にジャガイモがころがっていたんだ。あたりを見回すと、白いニット帽をかぶり、ピンクのスウェットを着ているセロリしかいなかった。ニワトリのたなかはいなかった。どうやったら帰ることができるんだ。ニワトリのたなかのおかげでここまで来ることができたが、帰り方は知らない。僕は困っていると、

「このジャガイモを蹴るんだ、同時に」

僕は深くうなずいた。セロリと僕はアイコンタクトを取り、一つ息を吐いてから同時に走り出し、同時にジャガイモを蹴った。そうするとジャガイモは自分が思いも寄らないほど高く飛び、ニワトリのたなかのとさかのように黄色く光り、視界を白く染めた。